目次
初めに
こんにちは。
スクタプの開発・運営を担当している吟遊堂です。
今回は、日本文学の豆知識として、『源氏物語』と「源氏香」について取り上げます。
『源氏物語』については、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
学校の教科書に取り上げられたり、大河ドラマに使われたり、目にする機会も多いのではないでしょうか。
2019年に戦後初めて藤原定家による『源氏物語』の写本が発見されたときは、ニュースにもなっていましたね。
今回取り上げるのは、そんな『源氏物語』と『源氏物語』の各巻の名前を採用している源氏香という遊びについてです。
まずは『源氏物語』の概要から触れていきましょう。
『源氏物語』とは
平安時代中期に、紫式部によって執筆されたのが『源氏物語』です。
全部で54帖からなる長編ですね。
『源氏物語』は3つの部に分かれていると言われています。
第1部は「桐壺」から「藤裏葉」まで、第2部は「若菜上」から「幻」まで、第3部は「匂宮」から「夢浮橋」までとなります。
なお、「匂宮」「紅梅」「竹河」をつなぎとして、「橋姫」から「夢浮橋」までの10帖のことを宇治十帖とも呼んでいます。
内容として、第1部では光源氏の青年期が描かれています。
正確には、光源氏が生まれる前から、青年となり、栄華を極めるまでのストーリーです。
ちなみに、この第1部では「貴種流離譚」と呼ばれる説話の類型が採用されています。
貴種流離譚は、文学作品や口承文芸で非常に重要なモチーフです。
若い神や貴人、英雄などが都や生まれ故郷を離れて放浪し、その中で様々な試練に遭遇します。
それを、動物たちの助けや知恵の働き、財宝の発見などによって乗り越え、英雄となったり尊い地位についたりするのが、この貴種流離譚における流れですね。
貴種流離譚の代表的な作品としては、大国主命や日本武尊の説話や、今回取り上げている『源氏物語』などがあります。
『源氏物語』では、「須磨」と「明石」で綴られる光源氏の須磨流謫が該当します。
続く第2部では、物語は光源氏の老年期に移ります。
華々しい第1部とは異なり、第2部では暗い展開になるんですよ。
紫の上が病に倒れたり女三宮が柏木と密通したりと、人々の間での事件が発生するようになります。
特に、女三宮と柏木の密通に関しては、第1部のころに光源氏自身が父を裏切り、藤壺と密通していたこともあって、罪の報いとなるわけですね。
そうこうしているうちに紫の上の病状が悪化し、亡くなってしまいます。
紫の上の死を受けた光源氏は、1年の間紫の上を追慕し、自分の人生を顧み、その後出家するというのがおおまかな流れです。
先ほども触れたように、第1部と第2部では物語は大きく形を変えます。
といっても、第2部で崩落していくには第1部で栄華を極める必要があるので、どちらが欠けてもストーリーは回らなくなりそうですね。
第2部では、そうやって栄華からの崩落を描くことで、富や名声、あるいは人の愛なども含めて、永遠にあるものではないのだということを表現しているのかもしれません。
さて、第3部ですが登場人物が変わります。
ここからは光源氏の縁者の話になるわけですね。
物語の中心となる人物は2人います。
女三宮と柏木の子どもの薫と、その友人の匂宮です。
それに加えて、薫が仏道の師と仰ぐ八宮の娘の大君、その妹の中の君、2人の異母妹である浮舟という女性たちが登場します。
これらの女性と薫、匂宮との間で様々な関係の変化が発生しつつ、話が展開していきます。
最終的には、大君は心労の果てに病死し、浮舟も板挟みの関係に苦しんだ末に尼となります。
このような、暗い人間関係や愛にまつわる話が描かれているのが第3部です。
『源氏物語』は全編を通して貴族の恋愛や宮廷生活を描いています。
山あり谷ありという様子がありありと記されていて、読み応えがありますよね。
後世の文芸への影響もさることながら、注釈書も数多く作られています。
そう考えると、『源氏物語』が非常に重視されていたことがわかりますね。
源氏香とは
ここまで、『源氏物語』そのものについて紹介してきましたが、続いては源氏香について話していきたいと思います。
「初めに」でも書きましたが、源氏香というのは遊びです。
より詳しく説明すると、香道における組香の題号の1種ですね。
そのため、香道について紹介した後、源氏香について触れていきます。
香道とは、読んで字のごとく、香りにまつわる芸道です。
茶道や華道と同じような感じですね。
香道では、香木という香りを出す木を用いています。
香木の香りを嗅ぎ分け、味わうのです。
香道で用いられるのは、六国五味という分類で表現される香です。
六国とは香木の種類の事ですね。
伽羅、羅国、真南蛮、真那賀、佐曽羅、寸門多羅の6種類があり、産地などの基準で分類されています。
五味については、香りを味に置き換えて表現したものになります。
辛、甘、酸、鹹、苦の5種類ですね。
あまり見覚えのない言葉もありますが、表現が難しいだけで知っている味なんですよ。
辛、甘、酸、苦はその通りの味で、鹹は「かん」と読み、塩辛い味を指すそうです。
これらの香を用いて行われるのが、聞香と組香です。
香道にはこの2種類があるんですね。
まずは聞香です。
これは、香りを鑑賞することを指します。
「聞く」と書きますが、香道では香りを嗅ぎ分けることをそう表現するんですよ。
聞香は、その名の通り香りを嗅ぎ分け、鑑賞することを指すんです。
続いて、組香ですね。
こちらが今回のメインです。
組香は、香を聞き分ける遊びです。
何種類かの香を鑑賞して、その異同を判じるものになります。
和歌や俳句、漢詩、文学作品などを主題にして香木を組み合わせているんですよ。
主題を文学からとる組香のうちの1種が源氏香です。
『源氏物語』が後世に与えた影響は、文学作品にとどまらないというわけですね。
源氏香は、5種類の香をそれぞれ5つずつ計25個用意します。
それを混ぜてから5つ取り出して炷き、香の異同を判じます。
たとえば、5つすべてが異なる香であれば「帚木」、すべて同じなら「手習」といった風に、『源氏物語』の各巻の名前を使って答えを表現していますよ。
組み合わせは全部で52種類なので、54帖の『源氏物語』のうち、最初の「桐壺」と最後の「夢浮橋」を除いた52の帖名が使用されています。
といっても、香りを聞いて直接帖名を選ぶわけではありません。
源氏香には、源氏香図と呼ばれる図があります。
5つの縦線からなり、右から1度目の香り、2度目、3度目、4度目、5度目を表します。
同じ香りだと思った場合は、該当する回の縦線の上部をつないでいきます。
まずは、このような源氏香図の作成を行うんです。
そうやって作った源氏香図の名前に、『源氏物語』の帖名が使われています。
そのため、回答が『源氏物語』の各巻の名前になるという流れです。
源氏香図は、組香で使われるほか、絵画や着物などでも使われています。
『源氏物語』から派生して作られた源氏香図も愛されるほどの力を持っていると思うと驚きますね。
もともと、組香は文学と取り合わせて行われる遊びです。
『源氏物語』もその題材の1つですが、それでも形を変えていろいろなところに組み込まれているのは、その影響力の大きさによるものなのだと思います。
終わりに
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、『源氏物語』の大まかな流れと、『源氏物語』を題材に取った遊び「源氏香」について話してきました。
『源氏物語』について大まかには知っていましたが、詳しい内容についてはあまり目を向けることがなかったので、改めて調べてみると知らないことが多いのだと実感しました。
個人的には、宇治十帖の存在は把握していましたが、第2部と宇治十帖の間につなぎの話があったのは初耳でした。
源氏香についても、源氏香図は見たことがありましたが、具体的な使い方は知らなかったので知見を広げることができました。
『源氏物語』に限らず、古典作品は様々なところで、様々なモチーフとなって使われていると思います。
物語として読む以外にも、遊びで触れたり、デザインモチーフとして触れたりとたくさんの触れ合い方があるのは素敵なことですよね。
今まで気にしていなかった部分にも、古典の影響があるかもしれないと思うとわくわくします。
ぜひ、日常に紛れる古典を探してみてください。